「対馬も漂着ゴミがひどいらしい」
そんな噂を確かめに、平成 26 年 7 月 27 日、理事松村と調査に向かった。
まずは、漂着ゴミ収集を目的に設立されたNPO法人「対馬の底力」を訪ね、代表の長瀬勉氏、事務局の植田信治氏に話を伺う。市の指導に従って収集ゴミのストックヤードを 6000 万円もの私財を投じて造ったという長瀬氏。ところが、それを長崎県から「法令違反」とされてしまったというから、ひどい話だ。さらには、漂着ゴミ撤去に環境省の莫大な補助金がついた後、対馬市は、島内各地の漁協に漂着ゴミ回収を事業として委託。日当 1 万円で漁師らがゴミ拾いをするようになった結果、「仕事がなくなるから拾わないでくれ」「この団体では、日当をくれないのか」などといわれるようになり、ボランティアの継続が難しくなったという。
一方、お隣の壱岐はといえば、漂着ゴミ拾いのボランティアが壱岐観光も楽しめるようにと、交通費を割安にしたり、飲食店でもサービスが受けられたりという「ボランツーリズム」が根付き、もちろんそれだけが理由ではなかろうが、島全体が日本人観光客で賑わっているそうだ。長瀬氏らは、背景に対馬の「島民性も原因のひとつ」と分析していた。例えばマグロにしても、壱岐では「壱岐ブランド」を立ち上げ、島全体が潤うように一致団結しているのに対し、対馬では漁師同士が協力し合うことも難しいらしい。
この日は、島の南端に近い与良内院から渡船に乗り、海上からゴミの状況を視察した。小さな岬をひとつ回るごとに岩の表情がそれぞれに変わり、「あれは鯨岩」「あの穴は、旧軍時代の格納庫」などと船長の梅野智明さんの説明を聞きながら眺める対馬の自然は一見限りなく魅力的だが、入り江には大小さまざまな漂着ゴミが打ち寄せているのが視認できる。錆で赤茶けたひときわ大きな漂着物は冷蔵庫だった。実際そばで確認したという梅野さんによれば「中国からのもの」だという。こうした漂着ゴミ問題に加えて、対馬は沿岸から海藻や珊瑚が消える磯やけにも悩まされており、この日もその原因と考えられるアイゴ・エイなど有害生物駆除のため、漁民が網を仕掛けていた。
一夜明け、翌日は、海流の関係で漂着ゴミが多いという島の西側を、朝鮮海峡と対馬海峡の境界にあたる最南西端、豆酘(つつ)崎から北上しつつ陸路で回った。車を降り、草生す小道を下っていくと、あるは、あるは……。大きなところでは、黒・オレンジなどの丸いブイ、浮きに使う発泡スチロール、漁網など漁具が目立つが、ペットボトルや洗剤のボトル、ラーメンやビーフジャーキーの袋、スプレー缶、木材など多岐にわたる。厳密に数えたわけではないが、ざっと見たところ、国籍は日・中・韓で、2:2:6ぐらいか。釜山まで約 50 キロと九州よりも韓国に近いことを考えれば、この比率もわからなくはないが、この日は、ハングルで「ロッテ アイスクリーム」と書かれた冷凍庫も発見。こんなものどうやったら自然に流れてくるんだろう。「海洋投棄」という言葉が頭を掠める。
とはいえ、これだけで「韓国はけしからん」と語気を荒げられるほど我々日本人が品行方正かと言えば、残念ながらそうとも言えないのが実状だ。環境省の調査事例を見ても、確かに対馬では韓国、沖縄では中国からの漂着ゴミの割合が高い。しかし、太平洋側の調査結果を見れば日本のゴミが圧倒的に多いし、狭山丘陵などでゴミ拾いをしてきた経験からも、日本人のゴミに対するモラルだってあまり威張れたものではないことも認識しておく必要があると感じている。
話を対馬に戻す。対照的に、エメラルドグリーンの海から白い砂浜に穏やかに波が打ち寄せる小茂田の浜には、ゴミひとつなかった。人気(ひとけ)もなく、プライベートで遊びに来るには最高の海水浴場であろうと思われた。しかし、しかしである。時は、 7 月 28 日。夏休み真っ只中、蝉時雨だけが虚しく響く人っ子ひとりいない海水浴場というのは、どうであろう。
ようやく人の気配がしたと振り返れば、ぞろぞろとやってきたのは、韓国人バスツアー客たち。 15 人ほどだろうか。家族連れが多い。泳ぐでもなし、ただ海を眺めて、しばらくするとまた貸切バスで次なる場所へと移動していく。
このとき目にした光景は、今思えば、現在の対馬を象徴するものであった。要は、訪れるのは韓国人ばかりで日本人観光客がいないのだ。セウォル号事件の後、いっときは韓国人が激減したものの、その対策として船賃を安くしたところ人数が盛り返したばかりか、モラルの低い客層が増えたという。
小茂田の浜がきれいだったのは、海水浴場だから既に掃除してあっただけで、手付かずのままであれば、やはりゴミに覆われていたはずなのだ。
国境の島、対馬。韓国人による土地の買占めや仏像盗難などさまざまな問題が浮上している中で、日本人同士がもっと協力して島を盛り立てていかなければ、ほとんど自滅していくに等しい。せっかくのボランティアの誠意を行政が踏みにじっているようではお話にならない。補助金がいつまでも続くとは限らない。が、漂着ゴミはそう簡単に消えてはくれないのだ。天然記念物のツシマヤマネコが住み、クエや石鯛など釣り人憧れの巨大魚が息づく豊かな自然を子孫たちに残すためにも、官民手を携えての対策が急務であることを痛感させられた。